栃木県の65歳以上人口は566,522人、総人口に占める割合は30.9%です(令和7年10月1日現在・県の年齢別人口調査)。日光市は38.3%、足利市は34.2%と、県内でも地域差が大きくなっています。人手が急に増えない前提で現場を回すなら、削れるのは「間接業務の時間」です。本記事では、介護事業所で生成AIが使える7場面を、要配慮個人情報の線引きと県内の支援窓口・補助制度の範囲まで含めて具体的に整理します。
栃木の介護現場を数字で押さえる

栃木県が公表している「年齢別人口調査結果(市町別年齢別人口)」の令和7(2025)年10月1日現在の値では、県全体の年齢3区分別人口は次のとおりです。
- 0〜14歳:196,362人(10.7%)
- 15〜64歳:1,070,223人(58.4%)
- 65歳以上:566,522人(30.9%)
市町別の65歳以上人口と構成比を見ると、県内の偏りがはっきりします。
| 市 | 65歳以上人口 | 構成比 |
|---|---|---|
| 日光市 | 27,151人 | 38.3% |
| 足利市 | 46,165人 | 34.2% |
| 栃木市 | 49,234人 | 33.4% |
| 佐野市 | 35,604人 | 32.5% |
| 大田原市 | 21,556人 | 32.2% |
| 那須塩原市 | 33,683人 | 30.4% |
| 真岡市 | 22,096人 | 29.3% |
| 宇都宮市 | 133,711人 | 27.0% |
| 小山市 | 43,801人 | 26.9% |
宇都宮市と小山市は構成比こそ県平均を下回りますが、人数では宇都宮市が13万人超と突出しています。「割合が高い地域」と「人数が多い地域」で必要な打ち手が違う、というのが栃木の特徴です。
国の側の見通しも押さえておきます。栃木県が公表している令和8年度介護テクノロジー定着支援事業実施要領には、事業の目的として次の記載があります。
今後、介護サービスの需要が更に高まる一方、生産年齢人口が急速に減少していくことが見込まれる中で、介護人材の確保は喫緊の課題である。また、「省力化投資促進プラン」(令和7年6月13日)において、2040年に▲20%以上の業務効率化を図る必要があるとされており、計画的かつ継続的に職場環境改善・生産性向上のための介護テクノロジー等の導入を図っていく必要がある。
同要領は、業務時間削減効果が確認されているものとして 見守り機器・介護記録ソフト・インカム を挙げ、小規模事業者も含めて集中的に支援するとしています。つまり県が想定している主戦場は「記録と情報共有」です。生成AIは、そこに乗る形で使うと筋が通ります。
使う前に引く3本の線:要配慮個人情報の扱い
介護は、生成AIを「とりあえず試す」で始めてよい領域ではありません。理由は扱う情報の性質です。
個人情報保護委員会と厚生労働省が示す「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(最終改正 令和8年4月)では、介護関係事業者における個人情報の例として ケアプラン、介護サービス提供にかかる計画、提供したサービス内容等の記録、事故の状況等の記録 が挙げられ、これらは病歴等と同様に要配慮個人情報として扱われるべきものと整理されています。
そこで、生成AIを入れる前に次の3本の線を引きます。
線1:入力してよい情報の線
氏名・生年月日・住所・電話番号・被保険者番号・病名・具体的な傷病の経過は、そのまま入力しません。「Aさん(80代・女性)」のように置き換えたうえで、必要最小限の状況だけを渡します。文体の整形や構成の相談であれば、実名や識別できる情報がなくても十分に成立します。
線2:使ってよいツールの線
入力データが学習に使われない設定・契約になっているか、ログの保存期間はどうか、アカウントは法人管理か個人か。ここを確認せずに個人アカウントで業務利用を始めると、後から止められません。ツール選定の考え方は既刊の生成AIツール比較の6軸、社内ルールの作り方は生成AIガイドラインの作り方で整理しています。
線3:責任の線
生成AIの出力は下書きです。記録の確定、家族への説明、事故報告の内容、ケアの判断は、いずれも職員と管理者の責任で行います。「AIが書いたから」は説明になりません。この線を最初に文書化しておくと、現場が安心して使えます。
生成AIが使える7場面

線を引いたうえで、実際に効く場面を挙げます。共通しているのは、利用者の状態を判断する場面ではなく、すでに人が判断した内容を「書く・整える・言い換える」場面であることです。
場面1:申し送り・引き継ぎメモの整形
口頭やメモ書きの断片を、時系列と項目に整えます。
次のメモを、申し送り用の箇条書きに整えてください。
条件:
- 「時刻/出来事/対応/次の勤務者への依頼」の4項目に分ける
- メモに書かれていない事実を追加しない。不足は【未記載】と書く
- 推測の表現(〜と思われる)は使わず、観察した事実だけを残す
- 個人が特定できる語は「Aさん」のままにする
「書かれていない事実を追加しない」は必須の指示です。生成AIは自然な文章にするために欠けた情報を埋めがちで、それが介護記録では致命的になります。
場面2:介護記録の下書きを客観的な記述に言い換える
「機嫌が悪かった」を「声かけに対して首を振り、居室から出られなかった」に直す、といった主観から客観への言い換えは、AIが得意で、かつ新人教育にも効きます。ただし確定と署名は職員が行い、記録システムへの入力は職員の目視確認後という手順を崩さないでください。
場面3:家族向けの報告文・お便りの作成
行事の案内、月次のお便り、面会ルールの変更連絡など、読み手が高齢のご家族である文書は、平易さと丁寧さの両立が求められます。「小学生でも読める言葉で」「1文を50字以内で」「専門用語には括弧書きで説明を付ける」と指示すると、読みやすい下書きが安定して出ます。県が「やさしい日本語」で示している「難しいことばは使わない」「短く区切る」という原則は、日本語話者のご家族向けにもそのまま効きます。
場面4:事故・ヒヤリハット報告書の「事実」と「考察」を分ける
報告書が書きにくい最大の理由は、事実と推測と反省が混ざることです。
次の記述を、報告書の3ブロックに分けて整理してください。
- 【事実】観察・確認できたことだけ
- 【推測】原因として考えられること(推測であることを明記)
- 【対策案】今後の手立て(実行できる粒度で)
記述にない情報を足さないでください。判断に必要な情報が足りない場合は、何が不足しているかを列挙してください。
「不足している情報を列挙させる」使い方が、実務では一番効きます。聞き取りの抜けがその場で分かります。
場面5:研修資料とOJTチェックリストの作成
新人向けの手順書、感染対策の掲示、腰痛予防の説明資料などは、下書きをAIに作らせ、施設の実態に合わせて職員が直す形が現実的です。外国人職員が在籍する事業所では、やさしい日本語版と多言語版を併せて用意する方法を外国人材向け手順書を生成AIで多言語化する5手順で解説しています。栃木県のとちぎ外国人材活躍促進協議会にも介護の業種別部会が置かれており、県内でも介護分野の外国人材受け入れは進んでいます。
場面6:採用・見学案内の文面
求人票、施設見学の案内、法人紹介ページの文章。介護は求人媒体上で文面が似通いやすいため、施設固有の事実(シフトの組み方、夜勤の人数、研修の中身)を素材として渡し、AIに構成させるほうが差が出ます。詳しくは既刊の求人票と採用文書の生成AI活用6場面を参照してください。
場面7:補助金・実地指導向け書類の下書き
補助金の申請書、業務改善計画書、運営規程の改定案といった「様式に沿って文章を埋める」書類は、素材(現状の課題、実施したこと、数値)を渡して構成させると速く進みます。ただし、様式・要件・添付書類の判断は必ず公式の要領で確認してください。申請書の書き方は既刊の補助金の事業計画書を生成AIで書く5手順で扱っています。
「介護記録ソフト」と「生成AI」を混同しない

ここは誤解が生まれやすいところなので、県の一次資料に沿って整理します。
栃木県は 令和8年度栃木県介護テクノロジー定着支援事業 を実施しており、公式ページに掲載されている内容は次のとおりです。
- 受付期間(予定):令和8(2026)年6月5日(金曜日)〜同年8月10日(月曜日)
- 交付決定予定:同年9月中
- 令和8年6月12日に開催された介護テクノロジー活用支援セミナーの視聴が、申請の条件(アーカイブ動画が公開されています)
- 交付対象者:介護保険法に基づくサービスを提供する全てのサービス事業所(訪問介護事業所や居宅介護支援事業所を含む)、老人福祉法に基づく養護老人ホーム及び軽費老人ホーム
- 補助対象:公益財団法人テクノエイド協会の「福祉用具情報システム(TAIS)」に掲載された介護テクノロジー、およびそれと同水準と実施主体が判断した機器等。パッケージ型導入支援の枠もある
- 介護ソフトの要件:記録業務・情報共有業務・請求業務を一気通貫で行える(転記等の業務が発生しない)こと
- 居宅系サービスの追加要件:令和8年度中にケアプランデータ連携システムによるデータ連携の実績があること(または令和9年3月31日までに予定していること)
- 令和8年度からはインカムについて付帯経費込みでの申請が可能に。ただし県補助要綱では補助上限台数の対象から外れる扱い
重要なのは、この制度の対象は「介護テクノロジー」であって、汎用の生成AIチャットツールそのものではないという点です。汎用の生成AIサービス単体が補助対象になるかどうかは、実施要領に明示がなく、2026年9月2日時点で公式に確認できていません。導入を検討する場合は、後述の窓口か県高齢対策課 介護人材担当に事前確認してください。なお、令和8年度の受付期間は既に終了しています。次年度の実施有無・要件は県の公式ページで確認が必要です。
補助制度を前提にした「実質いくらで導入できる」という試算は、要件審査の結果によって変わります。対象となる場合があります(要件審査あり)という理解にとどめ、金額の見込みは要領と見積書で個別に確認してください。
県内の相談窓口:介護のしごとサポートセンターとちぎ
栃木県は、栃木県介護生産性向上総合相談センター(通称:介護のしごとサポートセンターとちぎ) を令和7(2025)年7月18日に開所しています。県のページに掲載されている概要は次のとおりです。
- 目的:介護サービス事業所において質の高いケアを継続的に提供できる働きやすい職場を作るため、事業所ごとの介護テクノロジー等の導入による業務改善・生産性向上をサポートするワンストップ相談窓口
- 所在:とちぎ福祉プラザ1Fモデルルーム内(宇都宮市若草1丁目10番6号)
- 開所時間:9時00分〜17時00分/休所日は毎週土・日曜日、祝祭日、年末年始等
- 電話:028-627-2940
- 受託者:NPO法人とちぎノーマライゼーション研究会
- 内容:相談受付と課題の整理、県内外の関連団体・機関との連携、各種セミナーの開催、事業所へのアドバイザー派遣による伴走支援
生成AIの導入だけを目的にした窓口ではありませんが、「どの業務にどれだけ時間がかかっているか」を見える化する段階から相談できるのが実務的に大きい点です。県のページでも、介護テクノロジー導入の基本プロセスとして「課題の見える化」と「組織内の共有」を扱うセミナーが案内されています。ツールを選ぶ前に業務を測る、という順番はそのまま生成AIにも当てはまります。
小規模事業所での始め方
いきなり全事業所展開はしません。次の順で進めると失敗が減ります。
- 1週目:測る。1週間、間接業務(記録、申し送り、報告書、家族連絡、会議資料)にかかった時間をざっくり記録します。金額ではなく時間で測るのがコツです
- 2週目:1場面だけ選ぶ。上の7場面のうち、時間が最も長く、かつ個人情報の密度が低いものを1つ選びます。多くの事業所では場面3(家族向け文書)か場面5(研修資料)が入口として安全です
- 3週目:型を作る。うまくいった指示文を、そのままコピーして使える形で共有フォルダに保存します。個人の工夫で終わらせないことが定着の分かれ目です
- 4週目:ルールを1枚にする。入力してよい情報、使ってよいツール、確定の責任者。この3点だけで十分に始められます
介護記録そのもの(場面2)は、記録ソフトの運用と密接に絡むため、記録ソフトの見直しと同時に検討するほうが結果的に早く進みます。県の補助制度が介護記録ソフトを重点対象にしているのも同じ理由です。
よくある失敗5つ
1. 利用者名を入れたまま貼り付ける
最も多い事故です。貼る前に置換する、という運用ルールを紙で貼っておくのが確実です。
2. AIの出力をそのまま記録として確定する
記録は法令上の根拠を持つ文書です。下書きと確定を分け、確定は必ず職員が行ってください。
3. ケアの判断や医学的な評価をAIに求める
状態評価、服薬、受診の要否といった判断は、生成AIの出力を根拠にしないでください。介護・医療の判断は有資格者と医療機関の領域です。
4. 「導入したこと」を成果にしてしまう
測るべきは、間接業務にかかっていた時間の変化です。1週目に測った時間と比べられるようにしておきます。
5. 個人の工夫のまま属人化させる
指示文を共有しないと、その職員が異動した時点でゼロに戻ります。うまくいった指示文はテンプレート化して残してください。
FAQ
Q. 介護記録に生成AIを使うのは法令上問題ありませんか。
A. 生成AIの利用を直接禁じる規定は確認していませんが、記録に含まれる情報は要配慮個人情報として扱われるべきものです。「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(個人情報保護委員会・厚生労働省、最終改正 令和8年4月)に沿って、入力する情報の範囲、委託先の管理、安全管理措置を整理したうえで運用してください。
Q. 生成AIツールの費用は栃木県の補助金の対象になりますか。
A. 令和8年度栃木県介護テクノロジー定着支援事業の対象は、TAISに掲載された介護テクノロジーやそれと同水準と判断された機器等(介護記録ソフト、見守り機器、インカム等)です。汎用の生成AIチャットツール単体が対象になるかは実施要領に明示がなく、2026年9月2日時点で公式に確認できていません。対象となる場合があります(要件審査あり)ので、県高齢対策課 介護人材担当または介護のしごとサポートセンターとちぎに確認してください。
Q. 小規模な訪問介護事業所でも使えますか。
A. 使えます。むしろ事務職員がいない事業所ほど、家族向け文書や報告書の下書きにかかる時間が管理者に集中しがちです。なお県の補助制度の交付対象には訪問介護事業所や居宅介護支援事業所も含まれています。
Q. 職員がAIに抵抗を示します。
A. 「記録を書かせる」から入ると反発が出やすいため、場面3(家族向けのお便り)や場面5(研修資料)のように、判断を伴わず成果が見えやすい業務から始めてください。研修の設計は既刊の中小企業の生成AI研修設計5ステップが参考になります。
Q. 栃木県の高齢化率は今後どうなりますか。
A. 将来推計はここでは扱いません。確認できている実績値は、令和7年10月1日現在で65歳以上566,522人・30.9%、市町別では日光市38.3%が最も高い、というところまでです。
出典・参考
- 栃木県「年齢別人口調査結果(市町別年齢別人口)」令和7(2025)年10月1日現在(2026年9月5日参照)
- 同 データ(市町別年齢別人口 令和7年10月1日現在・xlsx)(2026年9月5日参照)
- 栃木県「令和8年度栃木県介護テクノロジー定着支援事業」(2026年9月5日参照)
- 栃木県「令和8年度栃木県介護テクノロジー定着支援事業実施要領」(2026年9月5日参照)
- 栃木県「栃木県介護生産性向上総合相談センター(通称:介護のしごとサポートセンターとちぎ)開所のお知らせ(R7.7.18〜)」(2026年9月5日参照)
- 介護のしごとサポートセンターとちぎ(受託者公式サイト)(2026年9月5日参照)
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(最終改正 令和8年4月)(2026年9月5日参照)
- 栃木県「とちぎ外国人材活躍促進協議会」(業種別部会に介護を含む)(2026年9月5日参照)
- 栃木県「やさしい日本語」(2026年9月5日参照)
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」(2026年9月5日参照)
未確認事項(記事内で明示済み)
- 汎用の生成AIチャットツール単体が令和8年度栃木県介護テクノロジー定着支援事業の補助対象となるか:2026年9月2日時点で公式に確認できていない
- 令和9年度以降の同事業の実施有無・要件:2026年9月2日時点で公式に確認できていない
- 栃木県の高齢化率の将来推計:本記事では扱わない(実績値のみ記載)