栃木県内の発注企業が新しい取引先を探すとき、3社に1社は展示会を見に来ています。ところが受注側で展示会に出ている会社は6社に1社しかいません。この差は、営業力の差ではなく準備の重さの差です。会社案内、できることの一覧、商談シート、想定問答、終わったあとのお礼と見積の下書き。この一式が重いから出られない。生成AIが効くのはまさにここで、判断ではなく下ごしらえの部分です。この記事は、2026年10月20日に宇都宮で開かれる商談会の公開情報を材料に、その一式をどう組むかを整理したものです。
発注側が見に来る場に、受注側が出ていない

まず数字から確認します。(公財)栃木県産業振興センターは毎年、県内の発注企業と受注企業に受発注の状況を尋ねています。令和7(2025)年度 発注企業及び受注企業の現況に関する調査結果(令和8年3月)は、令和8(2026)年1月19日から2月13日にかけて実施されたもので、発注企業は188社に配布して43社が回答(回答率22.9%)、受注企業は724社に配布して253社が回答(回答率34.9%)しています。
発注企業に「新規発注先の開拓方法」(複数回答)を尋ねた結果は次のとおりです。
- 相手先企業からの営業:38.7%
- 各種展示会の視察:35.5%
- 各種商談会への参加:29.0%
- センターからの紹介:25.8%
- その他:22.6%
一方、受注企業に「新規受注のための活動」(複数回答)を尋ねた結果はこうなります。
- 自社で営業:65.6%(166社)
- 他社・取引先から紹介:52.6%(133社)
- 商談会への参加:26.5%(67社)
- 展示会への出展:16.6%(42社)
- 特に活動していない:15.8%(40社)
- センターからの紹介:11.1%(28社)
読み方はこうです。発注側の開拓方法の2位と3位は展示会と商談会なのに、受注側でそこに出ているのは16.6%と26.5%にとどまる。受注側の6割超は自社で営業していますが、同じ調査で受注企業の経営課題の1位は「受注量の確保」(68.4%・173社)、今後の経営方針の1位は「取引先開拓」(64.1%・159社)です。取引先を増やしたいと答えている会社が、発注側の来ている場所には出ていない。この構図が、栃木の受発注の現状です。
もうひとつ、この調査には効いてくる数字があります。受注企業の最大取引先からの受注割合は「21%〜40%」が40.6%と最も多い一方、「61%〜80%」が12.4%、「81%〜」が6.4%あり、合わせて約19%が1社に強く依存しています。取引先の分散は、時間があるときにしか進みません。
10月20日、マロニエプラザで開かれる商談会
県内でいちばん規模の大きい受発注の場が、この秋にあります。株式会社足利銀行「ものづくり企業展示・商談会2026 開催概要」によると、内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 2026年10月20日(火曜日)10:00〜16:00 |
| 会場 | マロニエプラザ(宇都宮市元今泉6-1-37) |
| 主催 | 株式会社足利銀行 |
| 共催 | 足利小山信用金庫、栃木信用金庫、鹿沼相互信用金庫、佐野信用金庫、大田原信用金庫、烏山信用金庫、真岡信用組合、那須信用組合、栃木県、栃木県信用保証協会 |
| 特別協力 | (公財)栃木県産業振興センター |
| 出展企業(予定) | 150社 |
| 発注企業(予定) | 40社 |
| 予約商談会(予定) | 300組 |
| 来場者数(予定) | 1,000人(入場無料) |
| 出展費用 | 10,000円(税込)/発注企業は無料 |
会場のマロニエプラザは、栃木県立宇都宮産業展示館の愛称です。商談の進め方については、(公財)栃木県産業振興センター「ものづくり企業展示・商談会2026 発注企業募集のご案内」が、発注企業と出展(受注)企業との個別面談方式で11:30〜15:50予定、1商談は20分、最大7商談と案内しています。主催者ページは、商談希望先を事前にヒアリングしたうえでの完全予約制だと説明しています。
ここで正直に書いておきます。2026年の出展枠はすでに埋まっています。 主催者サイトのニュース欄には、2026年5月28日付で「申込社数の上限に達したため、出展申込を締め切らせていただきました」と掲載されています。発注企業としての参加についても、センターの案内は令和8(2026)年5月29日を申込期限としていました。いま出展を思い立っても2026年の枠には入れません。
では、この記事は誰のためのものか。3つあります。ひとつはすでに出展が決まっている150社で、残り時間で準備を仕上げる人。ふたつめは来場・発注側で見に行く人で、当日の見方と持ち帰り方を決めておきたい人。3つめは次の機会に出たい人です。同センターの商談会・展示会・展示商談会の紹介には、第61回スーパーマーケット・トレードショー2027(令和9年2月17日〜19日・幕張メッセ)などの予定も掲載されています。募集は数か月前に締まるため、出たい会場が決まっているなら、募集開始より前に自社紹介の材料をそろえておくのが唯一の対処です。完全予約制の商談会では、事前ヒアリングの時点で読まれる自社紹介の出来が、当日の商談本数をほぼ決めます。
発注企業が見ているのは「高品質」と「納期の厳守」

パネルや配布資料に何を書くか迷ったら、発注側が何を求めているかを見れば決まります。同じ調査で「発注先企業に求めるもの」(複数回答)はこうでした。
| 求めるもの | 割合 |
|---|---|
| 高品質 | 88.9%(32社) |
| 納期の厳守 | 80.6%(29社) |
| 低価格 | 58.3%(21社) |
| 設備・技術力 | 47.2%(17社) |
| 短納期 | 36.1%(13社) |
| 実績 | 16.7%(6社) |
| 企画・開発力 | 13.9%(5社) |
| 独自性 | 5.6%(2社) |
上位2つが品質と納期で、価格は3番目です。同じ調査の発注単価の項目では、前年と比べて「上昇」20.5%と「やや上昇」61.5%を合わせて82%が上昇と答えており、前回調査から8.6ポイント増えています。値段を下げて勝つ場ではない、と読むのが素直です。
もう1点。今後の発注方針(複数回答)は「既存発注先に発注」が63.9%で最も多く、「新規発注先を開拓」は38.9%でした。発注側の大半は今の取引先で足りているという前提で場に来ています。だからパネルに並べるべきは、会社の沿革や理念ではなく、今の取引先では埋まらない部分です。具体的には、対応できる材質・寸法・公差、保有設備と加工範囲、ロットの下限と上限、標準納期と最短納期、品質保証の体制と検査記録の出し方。この5点が、上の表の上位項目にそのまま対応します。
生成AIの出番はここにあります。手元にある会社案内、設備一覧、過去の見積、品質マニュアルを材料として渡し、「発注担当者が知りたい順に並べ替えて、A4横1枚に収まる分量に削って」と指示する。書かせるのではなく、持っている情報を並べ替えて削らせる使い方です。事実の追加は絶対にさせず、出てきた文面は必ず現場で確認します。
出展までの4週間で、何をどの順に用意するか

準備は、締切から逆算して4つの週に割り振ると回ります。実務でよく詰まる順に並べました。
4週前:自社の強みをA4横1枚に言語化する。 ここを飛ばすと、以降のすべてが薄くなります。作り方は単純で、直近1年の受注案件を10件書き出し、それぞれに「なぜ自社に来たのか」を1行で添えます。この10行を生成AIに渡して共通点を抜かせると、自社の言い分ではなく取引の事実から強みが出てきます。
3週前:パネルと配布資料の文章を作る。 上の1枚を元に、パネル用(遠くから読む・文字は少なく)と配布資料用(持ち帰って読む・数字を入れる)の2種類に書き分けます。生成AIには同じ材料から2つの分量で書き分けさせるのが向いています。ただし配布資料に載せる数値は、必ず社内の実データから転記します。
2週前:商談シートと想定問答をそろえる。 商談シートは、相手の会社名、聞かれたこと、こちらが出した条件、次の宿題を書く1枚です。想定問答は「短納期に対応できるか」「他社と何が違うか」「最小ロットは」「不良が出たときの対応は」といった質問への回答を、20〜30秒で言い切れる長さにそろえます。ここは生成AIに質問リストを量産させ、回答は自社で書くのが早いやり方です。
1週前:20分の話す順番を決めて、声に出す。 予約商談は1件20分です。挨拶と会社紹介に10分使うと、肝心の技術の話が残りません。「2分で会社、5分でできること、8分で相手の困りごと、5分で次の約束」のような配分を決め、実際に時計を見ながら声に出します。生成AIに台本を読ませて長すぎる箇所を指摘させると、削る判断が早くなります。
なお、この一連の下ごしらえは、自動車部品製造×生成AIの業務改善5つの実践例で扱った見積書・技術文書のたたき台作りと同じ道具立てです。すでに社内で文書業務に生成AIを使っている会社なら、材料の置き場所を変えるだけで始められます。
20分の商談で使う3枚
当日、机の上に置くものは3枚あれば足ります。
- 会社の1枚:所在地、従業員数、主な設備、主な業界。相手が社内に持ち帰って説明するときの素材になります
- できることの1枚:材質・寸法・公差・加工範囲・ロット・納期。この1枚が最も読まれます
- 実績の1枚:具体的な取引先名を出せない場合は、業界と部位と難所の書き方にします(たとえば「自動車内装部品の樹脂成形、金属インサートあり」)
3枚とも、その場で相手が書き込める余白を残しておきます。商談の最後に相手が書いた1行が、後日いちばん効きます。
配布資料に効果や優位性を書き込むときは、表現に注意が必要です。「業界最高水準」「日本一の精度」といった言い切りは、根拠がなければ景品表示法上の問題になり得ます。この線引きは小売・卸売業の生成AI活用と景品表示法で整理しています。生成AIは放っておくと言い切りの表現を作るので、出てきた文面から根拠のない最上級表現を落とす作業は必ず人が行ってください。
商談のあと|お礼と見積の下書きを止めない
商談会の成果が消えるのは、たいてい終わったあとの1週間です。名刺の束と手書きのメモが机に残り、通常業務に押し流されます。ここを止めないための順番はこうです。
| いつ | やること | 生成AIの使いどころ |
|---|---|---|
| 当日、会場を出る前 | 商談ごとに、聞かれたことと宿題を音声か箇条書きで残す | その場では使わない(記録が先) |
| 当日中 | 断片のメモを、案件ごとの体裁に整える | 箇条書きから「相手の困りごと・宿題・期限」の3項目に整形させる |
| 翌営業日 | お礼と、宿題の回答予定日を伝える | 定型の骨組みを作らせ、相手ごとの1行は自分で書く |
| 3営業日以内 | 見積または技術回答の前提条件を確認する文を送る | 確認すべき項目の抜け漏れチェック |
| 2週間後 | 動きのない先へ、別の切り口で1通 | 過去のやり取りを読ませて、まだ触れていない論点を出させる |
お礼のメールを生成AIに丸ごと書かせると、どの相手にも同じ文章が届きます。骨組みは共通、相手ごとの1行は人という分け方にしてください。その1行は、商談中に相手が話した困りごとをそのまま引くのがいちばん効きます。
見積そのものと、価格の決定は人の仕事です。商談後に条件を詰めていくと、やがて取引基本契約や注文書のやり取りが始まります。そこでどこまで生成AIに任せてよいかは、取引先の契約書チェックに生成AIを使う線引きに整理しました。
名刺・図面・単価|商談まわりで生成AIに渡さないもの
商談会の前後は、社外の情報が社内にいちばん多く入ってくる時期です。以下は入力前に立ち止まる対象です。
- 名刺の記載内容:氏名・所属・電話・メールは個人情報です。要約や整理をさせるときは、社名と役職だけにして氏名と連絡先を外します
- 相手から見せられた図面・仕様書:その場で預かった資料は、相手の秘密情報です。読み込ませない
- 単価と取引先名の組み合わせ:どちらか一方ではなく、セットで漏れると影響が大きくなります
- 未公表の引き合いの存在そのもの:まだ社内でも一部しか知らない話は、外部サービスに入れない
- 秘密保持契約の対象になっている情報:契約の文言によっては、外部サービスへの入力自体が「開示」に当たり得ます
使うサービスの利用規約と、入力したデータが学習に使われるかの設定を確認する手順は、生成AIガイドラインの作り方にまとめてあります。商談会に出る前に、「名刺と図面は入れない」の2行だけでも社内で共有しておくと、当日の事故が減ります。
展示会の出展費用と、県内で使える助成・窓口
出展には費用と手間がかかります。今回の商談会の出展費用は10,000円(税込)ですが、パネルの制作、配布資料の印刷、当日の人員を含めれば負担はこれだけでは済みません。県内には、その一部を支える仕組みがあります。
- 展示会 出展の助成金:(公財)栃木県産業振興センターの展示会等への助成金のページに、とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業(販路開拓・認証取得助成事業)と、フードバレーとちぎ農商工ファンド活用助成事業(販路開拓)が掲載されています。対象となる場合がありますが、要件審査があるため、対象経費と募集時期は必ず同センターに確認してください
- 取引あっせん:同センターは発注企業・受注企業の登録あっせん制度を運営しています。登録企業の希望に応じて取引条件を調査し、条件の合う企業どうしのあっせんを行うもので、県外企業との広域あっせんにも対応するとされています。展示会に出られない年でも、この登録は通年で意味があります
- AIの使い方そのもの:とちぎビジネスAIセンター。相談の進め方はとちぎビジネスAIセンターの使い方にまとめています
- 身近な相談:取引先の金融機関。今回の商談会が示すとおり、県内の展示・商談の場は金融機関のネットワークで運営されています。出展枠の情報は、まず取引金融機関の担当者に聞くのが早い経路です
よくある質問
Q. 出展が決まっていません。いま準備しても意味がありますか。
A. あります。完全予約制の商談会では、事前ヒアリングの段階で読まれる自社紹介の出来が、当日の商談本数を左右します。募集が始まってから資料を作り始めると間に合いません。この記事の「4週前」に当たる作業(直近1年の受注案件10件と、その受注理由の言語化)は、出展の有無にかかわらず営業資料の土台になります。
Q. パネルの文章を生成AIに全部書かせてよいですか。
A. すすめません。生成AIは、材料にない性能や実績をそれらしく足すことがあります。自社の設備一覧や品質記録を材料として渡し、並べ替えと分量の調整だけを任せてください。数値は社内の実データから転記し、出てきた文面は現場の担当者が読み合わせます。
Q. 商談の20分で、会社紹介はどのくらい話すべきですか。
A. 短いほど良い、が実務の答えです。(公財)栃木県産業振興センターの案内では1商談20分・最大7商談とされています。会社紹介に長く使うと、相手の困りごとを聞く時間と、次の約束を決める時間が残りません。会社の説明は配布資料に逃がして、口頭では対応範囲と条件に集中してください。
Q. 名刺をスキャンして生成AIに整理させるのは問題ありますか。
A. 名刺には氏名と連絡先という個人情報が含まれます。整理そのものを禁じる必要はありませんが、外部の生成AIサービスへ氏名・電話・メールをそのまま入力するのは避けてください。名刺管理は専用のサービスや自社の台帳で行い、生成AIには社名と役職と商談内容だけを渡す形にします。
Q. 発注側として見に行く場合、何を準備すればよいですか。
A. 探している加工・材質・ロット・希望納期を1枚にまとめ、当日はそれを見せて回るのが最短です。この1枚の下書きは生成AIに手伝わせて構いません。調査では発注企業の35.5%が展示会の視察を新規開拓の方法に挙げており、見に行く側の準備も成果を左右します。
Q. 展示会に出るお金がありません。他に方法はありますか。
A. (公財)栃木県産業振興センターの取引あっせん(発注・受注企業の登録)は通年で使えます。また同センターの展示会等への助成金のページに販路開拓向けの助成事業が掲載されているため、対象になるかを問い合わせる価値があります。いずれも要件審査があります。
まとめ
栃木の受発注には、はっきりしたずれがあります。発注企業の35.5%が展示会を見に来て29.0%が商談会に参加しているのに、受注企業で展示会に出ているのは16.6%です。取引先開拓を今後の経営方針に挙げた受注企業は64.1%あるのに、です。
このずれを埋めるのは営業力ではなく、準備物の重さを下げることです。直近1年の受注案件10件から強みを言語化し、それをパネル用と配布資料用に書き分け、20分の話す順番を決めて、当日その場でメモを残し、翌営業日にお礼を出す。 この一連のうち、書き分け・整形・抜け漏れチェックは生成AIに任せられます。数値の転記、価格の判断、相手ごとの1行は人が持ちます。
2026年10月20日の商談会は、出展枠がすでに埋まっています。だからこそ、いま作るべきは当日の資料ではなく、次の募集が始まったときに30分で申し込める状態です。まずは直近1年の受注案件を10件、紙に書き出すところから始めてください。
出典・参考
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「令和7(2025)年度 発注企業及び受注企業の現況に関する調査結果」(令和8年3月)(PDF)
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「発注企業及び受注企業の現況に関する調査」
- 株式会社足利銀行「ものづくり企業展示・商談会2026 開催概要」
- 株式会社足利銀行「ものづくり企業展示・商談会2026」(出展申込の締切に関するニュース・2026年5月28日)
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「ものづくり企業展示・商談会2026 発注企業募集のご案内」
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「商談会・展示会・展示商談会の紹介」
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「展示会等への助成金」
- 公益財団法人栃木県産業振興センター「取引あっせんの紹介」
- 栃木県「県立宇都宮産業展示館(マロニエプラザ)」
この記事で確認できていないこと
- 2027年以降の「ものづくり企業展示・商談会」の開催日程・出展募集の開始時期。2026年9月時点で公式に確認できていません
- 展示会等への助成金(とちぎ未来チャレンジファンド活用助成事業、フードバレーとちぎ農商工ファンド活用助成事業)の令和8年度の補助率・上限額・募集期間。本記事では事業の存在と掲載ページの確認までにとどめています
- 栃木県内の企業が商談会・展示会の準備業務に生成AIを使っている割合。県単位の集計は2026年9月時点で公式に確認できていません
- 令和7年度の現況調査は、発注企業43社・受注企業253社の回答に基づく数値です。設問によって無回答があるため、分母は設問ごとに異なります
- 個別の展示会への出展可否、費用対効果の見込み、および特定の生成AIサービスの契約条件。いずれも本記事の範囲外です