この記事の要点
人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースは、事業展開やDX・GX化に伴う10時間以上のOFF-JT訓練に、中小企業なら経費の75%と1人1時間あたり1,000円の賃金助成が出る制度で、令和8年度末までの時限措置です。2026年8月3日の改正で、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶだけの生成AI講座は対象外となり、営業の提案書作成など特定の業務に直結する内容が求められるようになりました。計画届は訓練開始の6か月前から1か月前までに栃木労働局へ出します。研修の中身を決める前に、県労働政策課のリスキリング個別相談会(無料)と、とちぎビジネスAIセンターの研修を先に見ておくと、対象になる訓練の形が具体的になります。対象となる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。
事業展開等リスキリング支援コースとは|令和8年度で終わる時限措置
対象になる3つの訓練
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に職務に関連した知識や技能を習得させる訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。そのうち事業展開等リスキリング支援コースは、令和4年度から8年度までの期間限定の助成金として創設されました(厚生労働省「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」)。

対象になるのは、次の3つのいずれかに当てはまる訓練です。
- 事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識や技能を習得させる訓練
- 企業内のDX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進める場合に、関連する業務に従事させる上で必要となる知識や技能を習得させる訓練
- 企業内の人事・人材育成に関する計画にもとづき、今後従事する予定の職務に必要な知識や技能を習得させる訓練
生成AI研修は、多くの場合2番目のDX化の枠で計画します。パンフレットは、単にデジタル機器で文章や数値を入力する程度の初歩的な操作だけの訓練や、既存のアプリの操作方法を覚えるだけの訓練、コンサルタントによる指導は対象にならないと明記しています(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。
基本要件
訓練対象者は申請事業主の雇用保険被保険者で、OFF-JTにより実施され、実訓練時間数が10時間以上であることが基本要件です。eラーニングや通信制の訓練は、標準学習時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であることが求められます(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。
申請事業主の側にも要件があります。雇用保険適用事業所であること、職業能力開発推進者を選任していること、事業内職業能力開発計画を作って労働者に周知していること、訓練期間中も賃金を適正に支払っていること、事業展開等実施計画(様式第1-3号)を作ることなどです。
助成率と限度額
中小企業事業主の場合、通常分の経費助成は75%、賃金助成は1人1時間あたり1,000円です。大企業は経費助成60%、賃金助成500円です。1人1訓練あたりの経費助成の限度額は、実訓練時間数が10時間以上100時間未満で30万円、100時間以上200時間未満で40万円、200時間以上で50万円です(中小企業の場合)。eラーニングや通信制の訓練は中小企業で15万円、定額制サービスによる訓練は1人1月あたり2万円が限度です。賃金助成は1人1訓練あたり1,200時間が限度時間です(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。
対象となる経費は、部外講師への謝金(実訓練時間1時間あたり3万円が上限)、部外講師の旅費、施設・設備の借上費、教科書・教材の購入費などで、支給申請までに申請事業主がすべて負担していることが必要です。受講する労働者に費用を一部でも負担させると、賃金助成を含めて不支給になります。
助成金は要件審査を経て支給・不支給が決まり、計画届を提出したことで確実に支給されるものではありません。対象となる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。
2026年8月3日改正で変わった2点|生成AI研修は「業務直結」でないと対象外
対象とならない訓練の例
厚生労働省は、令和8年8月3日以降に提出された計画届から、DX化・GX化に関する訓練のうち「職業または職務に間接的に必要となる知識・技能を習得させる内容のもの」と「職業や職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの」を助成対象外にしました(厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:令和8年8月3日からの変更点について」)。

同じ資料に、生成AIの例がそのまま載っています。生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練は、営業担当者の具体的な業務に直結しているため助成対象です。一方、生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は、特定の業務への具体的な適用を伴わないため助成対象外です。DXの概念やデータ活用の考え方を学ぶ訓練、脱炭素の基本理念や国際情勢を学ぶ訓練も、共通知識の習得にとどまるため対象外とされています。
もう1つの観点は「訓練内容に沿って対象労働者を選定しているか」です。自社のエネルギー使用量データの収集方法とCO2排出量算定ルールにもとづく計算手順を学ぶ訓練は、算定業務を担当する者を対象にすれば助成対象ですが、人事や営業に従事する者を対象にすると対象外になります。生成AI研修でも同じで、「全社員向けの生成AI入門」は通りにくく、「見積担当者向けの見積書下書き訓練」のように業務と受講者を絞る必要があります。
eラーニングは年度1回まで
助成対象となる訓練の受講回数は、1労働者につき1年度で3回までです。このうち、令和8年8月3日以降に提出された計画届にもとづくeラーニングによる訓練は、1労働者につき1年度で1回までになりました。年度は支給申請日を基準に4月1日から翌年3月31日までです(厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について」)。教育訓練機関との契約や申込が令和8年8月2日以前に行われている場合は経過措置があります。
設備投資加算
令和8年度からは設備投資加算も新設されています。中小企業事業主が、訓練で習得した知識や技能を活用して事業展開やDX化・GX化に取り組み、賃金要件(訓練終了日の翌日から1年以内に毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加)または資格等手当要件(手当の支払いにより3%以上増加)のいずれかを満たし、訓練終了後に事業展開促進機器等を新たに導入した場合に、導入費用の50%が加算されます。限度額は支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は150万円です(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。加算の対象になる訓練は通学制または同時双方向型で、実技で機器・設備を実際に使うものに限られ、企業内の人事・人材育成計画にもとづく訓練は除かれます。
栃木の窓口|どこに何を相談するか
栃木労働局
計画届と支給申請の提出先は、事業所の所在地を管轄する労働局です。栃木県内の事業所であれば栃木労働局で、各種助成金関係のページに人材開発支援助成金の案内と、訓練経費の負担の取扱いを令和6年11月5日から明確化した資料へのリンクが置かれています(栃木労働局「各種助成金関係」)。相談内容から窓口を探すページでは、助成金や求人に関する相談は労働局職業安定課・職業対策課、雇用環境に関する相談は雇用環境・均等室と整理されています(栃木労働局「相談内容から窓口をさがす」)。

パンフレットには、事業内職業能力開発計画の作成について各都道府県労働局で相談を受け付けていると書かれています。計画届を書く前に、推進者の選任と計画の策定が済んでいるかを労働局に確認しておくと、提出直前の手戻りを防げます。
県労働政策課のリスキリング個別相談会
栃木県労働政策課は、令和8年8月から12月中旬まで、経営やDXに精通する相談員が企業の課題に沿って無料でアドバイスするリスキリング個別相談会を実施しています。相談内容の例として「生成AIの導入による業務効率化の進め方」「社内におけるDX人材育成やリスキリング推進のための体制整備」が挙げられ、対象は栃木県内に本社または事業所がある企業等、定員は10社程度、1回あたり60分から120分程度で1社につき累計6時間まで、申込期限は令和8年11月30日17時です(栃木県「リスキリング個別相談会」(2026年7月27日更新))。
助成金の申請そのものを代行する場ではありませんが、「どの業務に生成AIを当てるか」「誰を受講者にするか」を先に整理できるので、計画届の事業展開等実施計画に書く内容が固まります。
とちぎビジネスAIセンターと県のオンライン講習
とちぎビジネスAIセンターは、県内企業の実務担当者向けに「実務者向けハンズオンで学ぶ業務改善スキル習得研修」を実施しており、生成AI概論およびChatGPTのハンズオン研修の第2回は令和8年10月22日14時から17時、kintoneのハンズオン研修の第2回は令和8年12月24日で、受講料は無料、会場は宇都宮市ゆいの杜の産業創造プラザ内です(栃木県産業振興センター「とちぎビジネスAIセンター『実務者向けハンズオンで学ぶ業務改善スキル習得研修』の受講者募集について」)。1講座のみの受講で、PCは持ち込みです。
県はUdemy Businessを活用したオンライン講習も提供しており、半期あたり1ライセンス5,500円(税込)、1事業者あたり5ライセンスが上限で、下期の申込締切は令和8年9月9日でしたが、定員に余裕がある場合は締切後も申込できます(栃木県「Udemy Businessを活用したオンライン講習」(2026年4月7日更新))。
これらの県の講習は無料または低額なので、助成金の対象訓練として計画するより、社内で「どの業務に効くか」を見極める下見に向いています。センターの使い方はとちぎビジネスAIセンターの使い方|支援3分野と手順で整理しています。
計画届から支給申請までの流れ|訓練開始の6か月前から1か月前
申請の前提を先に済ませる
手続きの前提は、社内の職業能力開発推進者の選任と、事業内職業能力開発計画の策定です。職業能力開発促進法第8条にもとづく事業主の努力義務で、助成金では計画届の提出までに選任・策定・従業員への周知を終えていることが必要です(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。研修や人事の担当課長などを推進者に選任し、計画はA4で数枚の簡潔なものでかまいません。

計画届の提出
職業訓練実施計画届(様式第1-1号)は、訓練開始日から起算して6か月前から1か月前までの間に、事業展開等実施計画(様式第1-3号)、訓練カリキュラム、受講案内などを添えて労働局へ提出します。提出方法は、窓口への直接提出、郵送(労働局に到達した日が提出日で消印有効ではない)、雇用関係助成金ポータルによる電子申請の3つで、電子申請にはGビズIDが必要です。計画届を電子申請で出していない場合は、変更届と支給申請も電子申請では行えません(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。
たとえば訓練開始日が翌年3月30日なら、提出期間は9月30日から2月28日までです。10月や11月に研修を始めたいなら、逆算するとすでに提出期間に入っていることになるので、講師や会場が決まった段階で先に計画届を出し、内容が変わったら変更届で対応します。
訓練の実施と支給申請
訓練を実施し、訓練にかかる費用を支給申請までに支払い終えたうえで、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請書(様式第4-2号)と必要書類を労働局に提出します。令和7年度以降は、審査は支給申請後に一括して行われます。1事業所が1年度に受給できる助成額は1億円です(厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内」)。
県内の主要業種で「業務直結」に落とす研修の組み方
自動車部品・製造業
対象になるのは、受講者の具体的な業務に直結する内容です。県内の部品メーカーなら、「見積担当者が図面と仕様書から見積書の下書きを作る」「品質担当者が不適合報告書を生成AIで整える」のように、業務と受講者を先に決めてから研修内容を組みます。自動車部品の具体的な場面は栃木の自動車部品製造×生成AI|業務改善5つの実践例にまとめています。
医療機器
医療機器の品質文書は、書式と手順が決まっているので「文書の型に沿って下書きを作り、人が照合する」訓練が組みやすい分野です。訓練の対象者は品質保証や薬事の担当者に絞ります。文書づくりの原則は医療機器の品質文書を生成AIで作る4原則で扱っています。
小売・観光
小売や観光では、「商品説明文の作成」「多言語の案内文の下書き」のように、成果物が特定できる業務を選びます。「接客全般でAIを使う」では業務が特定できず、汎用的な内容と判断されるおそれがあります。
研修全体の設計手順は中小企業の生成AI研修設計5ステップを、制度全体の一覧は栃木県の中小企業向けAI導入補助金・支援制度まとめを参照してください。
申請書類の下書きに生成AIをどこまで使うか
下書きに使ってよいもの
- 事業展開等実施計画に書く「事業展開の内容」「訓練と業務の関係」の文章化。箇条書きの事実を渡して整えさせる
- 訓練カリキュラムの案。到達目標・時間配分・各回の演習内容を表にする
- 職業能力開発推進者の選任通知や、従業員向けの計画の周知文
入れてはいけない情報
- 対象労働者の氏名、雇用保険被保険者番号、賃金額
- 取引先の名称や取引条件
- 就業規則のうち未公開の改定案
人が決めること
- 対象労働者の選定。訓練内容に沿って業務担当者を選ぶ
- 賃金要件・資格等手当要件を使うかどうか
- 訓練が「業務に直結する」と説明できるかの最終判断
生成AIの社内ルールがまだ無い場合は、研修と同時にA4 2枚程度のガイドラインを作っておくと、訓練後の運用が続きます。作り方は生成AIガイドラインの作り方|A4 2枚・必須6項目にまとめています。

よくある質問
Q. 社内の担当者が講師になる生成AI研修も対象になりますか。
事業内訓練として計画でき、部内講師でも実施できます。ただし対象経費は部外講師への謝金や施設の借上費などに限られ、部内講師の人件費は経費助成の対象ではありません。賃金助成は所定労働時間内の訓練について対象になります。
Q. 8月2日以前に申し込んだeラーニング講座はどう扱われますか。
教育訓練機関との契約や申込が令和8年8月2日以前に行われている場合は経過措置があり、eラーニングの受講回数制限(1年度1回)には算入されません。契約書や申込書の写しを計画届の提出時に出します。
Q. 訓練費用を従業員に一部負担してもらってもよいですか。
対象労働者に訓練経費を一部でも負担させた場合、賃金助成を含めて不支給になります。育児休業中訓練を除き、費用は申請事業主が全額負担してください。
Q. 計画届を出せば助成金はもらえますか。
計画届を提出したことで確実に支給されるものではありません。支給申請後に一括して審査され、要件を満たさない場合は不支給になります。対象となる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。
Q. まず誰に相談すればよいですか。
制度の要件と提出書類は栃木労働局、研修の中身と受講者の絞り込みは県労働政策課のリスキリング個別相談会、ツールの操作と業務の当てはめはとちぎビジネスAIセンター、という分け方が実務では動きやすいです。
運営元 Uravation より自社に近い業務から着手先を選ぶ材料として、業務別の生成AI活用事例50例を無料で公開しています。 生成AI活用事例 業務別50選を受け取る(無料)