この記事は、ハウスの環境制御や収穫ロボットといったスマート農業のハードの話ではなく、いちご経営の「文章を書く仕事」を生成AIで軽くする話です。栃木県はいちごの収穫量が57年連続で全国1位(1968年産以降・令和6年産時点)。産地としての強さを売上につなげるには、商品説明文や案内文の量と質が効いてきます。
この記事の範囲|スマート農業のハードと、経営・文書の生成AIは別物

「農業×AI」と聞くと、まずハウスの環境制御や収穫ロボットが思い浮かびます。これは国の制度でも後押しされている領域で、2024年10月1日に施行された「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」(スマート農業技術活用促進法)では、生産方式革新実施計画と開発供給実施計画という2つの認定制度が設けられ、認定を受けた農業者・事業者は金融支援や税制優遇、補助事業での優先採択等を受けられます。
一方、この記事が扱うのはそこではありません。パソコンとスマートフォンだけで今日から始められる、経営・文書・販促の側です。具体的には次の領域を指します。
- 直販サイトやECの商品説明文
- ふるさと納税の返礼品説明
- SNS投稿と観光いちご園の案内文
- 多言語案内の下訳
- 補助金・計画書の下書き
- 作業日誌の整理
設備投資が必要なハード側と違い、こちらは初期費用がほぼかかりません。まずこちらから着手して、浮いた時間をハード側の検討に回す、という順番が現実的です。
栃木のいちご経営で、文章を書く場面はどこにあるか
栃木県のいちごは、令和6(2024)年産で収穫量が57年連続、作付面積が24年連続、単収が34年連続で全国1位です(全国の収穫量は156,600t、作付面積は4,700ha。栃木県の単収は5t/10aを上回りました)。品種も、とちおとめ、とちあいか(栃木i37号)、スカイベリー(栃木i27号)、ミルキーベリー(栃木iW1号)、なつおとめ、とちひめと幅があります。
ここが文章仕事の量に直結します。品種が複数あり、市場出荷・直販・EC・ふるさと納税・観光いちご園と販路も複数ある。そのかけ算の数だけ、説明文の型が必要になります。しかも書く時期が収穫最盛期と重なるため、書く時間が最初に削られる。これが多くの経営体で起きていることです。
| 販路 | 必要な文章 | 書き直しの頻度 |
|---|---|---|
| 直販・EC | 商品説明文、発送・保存の案内、よくある質問 | 品種・規格ごとに毎シーズン |
| ふるさと納税 | 返礼品説明、寄附者向けの同梱文 | 年1回の登録更新+随時 |
| SNS | 収穫状況、販売開始告知、農園の日常 | 週単位 |
| 観光いちご園 | 予約案内、園内のルール説明、多言語案内 | シーズン前に一括 |
| 補助金・計画 | 事業計画、実績報告 | 公募のたび |
生成AIが効くのは、この表の全行です。ただし効き方が違います。SNSのように量が要る場面では「たくさん出させて選ぶ」、ふるさと納税のようにルールが厳しい場面では「型を守らせて埋める」。同じツールでも使い方を分けてください。
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販促・EC・ふるさと納税の文章を生成AIで書く

ECの商品説明文
いちごのEC説明文で失敗しやすいのは、味の表現が毎回同じになることと、配送・保存の注意が抜けることです。品種の特徴を自分の言葉で箇条書きにして渡し、文章化だけを任せるのが安全です。
- 例:「以下は当園のいちごの特徴メモです。このメモに書かれている事実だけを使って、通販サイトの商品説明文を作ってください。構成は『どんないちごか』『食べ方・保存方法』『発送について』の3見出し。全体で400字程度。メモにない産地の歴史や受賞歴、他産地との比較は書かないでください。味の表現は『甘い』『酸味が少ない』などメモにある語だけを使い、詩的な比喩は入れないでください。」
「メモにないことを書くな」を明示するのが最重要です。これを外すと、ありもしない受賞歴や栽培方法が自然な文章で紛れ込みます。
ふるさと納税の返礼品説明
ふるさと納税は、返礼割合3割以下と地場産品基準が総務省告示(平成31年総務省告示第179号)で定められた制度です。返礼品の説明文は自治体の担当課が確認するため、書式・記載必須項目が決まっていることが多く、生成AIには「型を守って埋める」使い方が合います。
- 例:「以下の記載項目の順番と見出しを変えずに、返礼品説明文の下書きを作ってください。項目は『内容量』『品種』『発送時期』『保存方法』『注意事項』。各項目は与えた情報のみで書き、情報がない項目は『[未記入]』と残してください。宣伝的な誇張表現、他自治体との比較、数量限定などの記載は入れないでください。」
自治体ごとに様式が違うので、最初の1回だけ様式を丁寧に読み込ませて「型」を作り、以降は品種と時期を差し替えて使い回すと早くなります。
SNS投稿
SNSは、うまい1本より継続のほうが効きます。ここは量を出させて選ぶ使い方です。
- 例:「今日の農園の状況を伝える投稿文を5案作ってください。使う事実は次の3点だけです(記載内容を貼る)。1案120字以内、絵文字なし、宣伝色は抑えて日常の記録として。5案それぞれ切り口を変えてください(作業の様子/天候/品種の違い/お客様からの質問/出荷の準備)。」
切り口を指定しないと5案とも似た文になります。切り口を先に決めて渡すのがコツです。
観光いちご園の案内文と多言語対応
栃木県は2025年の観光客入込数が9,076.2万人(うち日光市1,073.5万人)で、観光いちご園は県の農政部門も特集を組む定番コンテンツです。観光いちご園の文章仕事は、シーズン前に一気に発生し、しかも一度作れば1シーズン使えるという特徴があります。生成AIの費用対効果が最も高い場面のひとつです。
特に効くのが、日本語で作った案内文の多言語化です。翻訳サービスに丸投げするのではなく、日本語の原文を「翻訳しやすい形」に整えるところから生成AIに任せます。
- 例:「以下は観光いちご園の日本語の案内文です。まず、外国語に訳したときに誤解されやすい表現(主語の省略、二重否定、あいまいな時間表現、和製英語)を指摘してください。次に、意味を変えずに訳しやすく書き直した日本語版を作ってください。書き直し版では、料金・時間・持ち帰り可否など数値と可否の情報を独立した短い文に分けてください。」
訳しやすい日本語にしてから訳すと、多言語版どうしの食い違いが減ります。なお、料金・予約条件・アレルギーや衛生上の注意など、間違えると実害が出る部分は、必ず人が最終確認してください。訳文をそのまま掲示するのは避けてください。
補助金・計画書の下書きと、作業日誌の整理
補助金の申請書は、公募要領の要件に対して自分の計画がどう答えているかを整理する作業です。ここで生成AIに任せるのは「要件の抽出と、自分のメモの並べ替え」までで、計画の中身を作らせてはいけません。事実でないことが書かれた申請書は、通っても後で問題になります。県内で使える制度と相談窓口は「栃木県の企業が使えるAI導入補助金・支援制度」で整理しています。
作業日誌の整理も、生成AIが向いている地味な領域です。スマートフォンに音声やメモで残した記録を、月末にまとめて整形させます。
- 例:「以下は1か月分の作業メモです。日付順に並べ替えたうえで、『作業内容』『使用資材』『気づいたこと』の3列の表にしてください。メモに書かれていない作業や数量は補わないでください。日付が読み取れない行は表の下に『日付不明』としてそのまま残してください。」
翌シーズンの計画づくりや、補助金の実績報告で「去年の記録」が必要になったときに、この整形済みの記録が効いてきます。
使うときの3つの注意点

いちごの販促文で生成AIを使うときに、実際に事故が起きやすいのは次の3点です。公開前に必ず確認してください。
- 品種名の表記:とちあいか(栃木i37号)、スカイベリー(栃木i27号)、ミルキーベリー(栃木iW1号)のように、品種には正式な系統名と商標名があります。生成AIは似た名前の品種を混同したり、存在しない品種名を作ったりします。品種名は必ず栃木県の公式ページで確認してください。
- 数字の裏取り:「日本一」「◯年連続」「糖度◯度」といった数字は、出典がない限り書かないでください。栃木県の公式統計で確認できるのは、令和6年産で収穫量57年連続・作付面積24年連続・単収34年連続の全国1位という事実です。生成AIが出した数字をそのまま載せない、を徹底してください。
- 産地の表示:ふるさと納税では地場産品基準があり、通常の食品表示にも産地表示のルールがあります。生成AIは「◯◯産」を推測で補うことがあります。産地・内容量・保存方法は、AIの出力ではなく自分の記録から転記してください。
この3点は、社内(家族経営なら家族内)でチェックリストにして共有しておくと運用が安定します。文章を書く担当が複数いる場合は、確認する人を1人決めてください。生成AIの使い方を体系的に整理したい場合は「中小企業の生成AI研修設計5ステップ」も参考になります。
よくある質問
生成AIで書いた商品説明文をそのまま公開してよいですか
そのままの公開は避けてください。理由は品質ではなく事実確認です。生成AIは、指示していない受賞歴・栽培方法・産地の由来をもっともらしく補うことがあります。数字と固有名詞だけでも自分の記録と突き合わせてから公開してください。
無料のツールでも十分ですか
販促文やSNS投稿の下書きであれば、無料で提供されているサービスでも実用になります。ただし、取引先の個人情報や、まだ公表していない取引条件を入力するのは避けてください。入力内容がサービス側で利用される設定になっている場合があります。
いちご以外の作物でも同じように使えますか
使えます。この記事の考え方は「販路の数×説明が必要な項目の数」だけ文章仕事が発生する、という点にあり、作物には依存しません。品種名や規格の呼び方が違うだけなので、プロンプトの中の品種部分を差し替えれば流用できます。
スマート農業の補助金で、生成AIの費用も対象になりますか
制度によって対象経費の考え方が異なるため、一律には言えません。対象となる場合があります(要件審査あり)ので、公募要領の対象経費の欄を確認し、判断がつかない場合は補助金の相談窓口に事前確認してください。
家族経営でも導入する意味はありますか
むしろ人数が少ないほど効きます。文章を書く仕事は分担しづらく、書ける人1人に集中しがちだからです。その1人の作業時間が減ることが、そのまま経営全体の余力になります。
参考・出典
- 農林水産省「スマート農業」(2026年9月5日参照)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2026年9月5日参照)
- とちぎビジネスAIセンター(栃木県)(2026年9月5日参照)
- 総務省「ふるさと納税に関連する『返礼品』について(指定制度)」(2026年9月5日参照)
まとめ
栃木県のいちごは、令和6年産で収穫量57年連続・作付面積24年連続・単収34年連続の全国1位という産地です。この強さを売上に変換する工程には、必ず文章が挟まります。商品説明文、返礼品説明、SNS、観光いちご園の案内、補助金の書類、作業日誌。生成AIが最初に効くのは、この地味な積み上げの部分です。
始め方はシンプルで、いちばん時間を取られている文章を1つ選び、事実は自分のメモから渡し、書かれていないことを足させない指示を付ける。この型ができれば、他の文章にもそのまま横展開できます。導入の進め方を相談したい場合は企業向けの支援内容をご覧いただくか、お問い合わせからご連絡ください。
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