栃木県で事業をしている人にとって、10月12日は忘れにくい日付です。令和元年東日本台風は県内全25市町に被害を出し、県南を中心に工場も農業用ハウスも水に浸かりました。あれから7年になります。この記事では、県の被害記録と支援制度を確認したうえで、計画書を書き始める前に自社のリスクを洗い出す4つの確認を整理します。生成AIに任せてよいのは、洗い出した内容を文書に整える下書きまでです。
この記事の要点
- 令和元年東日本台風では県内で死者4名、住家の全壊83棟、半壊5,233棟、一部損壊8,666棟の被害が出ました(令和2年3月26日現在)。農業関係の被害額は合計約178億円です。
- 栃木県は2015年から損害保険会社と商工団体との協定でBCP策定支援を続けており、県内事業者への専門家派遣は費用無料・回数制限なしです。
- 事業継続力強化計画は経済産業大臣が認定する取り組みやすいBCPで、認定を受けると税制措置、低利融資、補助金の加点などが受けられます。
- 計画書を書く前に、場所・人・物と金・取引先の4つで自社のリスクを洗い出します。ハザード情報の判定と被害想定の数字は生成AIに作らせません。
- 生成AIに任せるのは、弱点リストの整理、役割分担表、安否確認の連絡文、訓練の進行台本の下書きです。
令和元年東日本台風は県内全25市町に被害を出した
人的被害と住家被害の数字
栃木県防災サイトに掲載された令和元年東日本台風による被害等の概要(PDF)によると、令和2年3月26日現在の人的被害は死者4名、重症4名、中等症4名、軽症15名です。住家被害は全壊83棟、半壊5,233棟、一部損壊8,666棟、床上浸水2棟、床下浸水133棟でした。避難所は被害報の最大値で25市町369箇所に開設され、19,822人が身を寄せました。

市町別では栃木市の被害が大きく、同じ資料の一覧で半壊2,823棟、一部損壊5,145棟と記録されています。県南の栃木市・佐野市・足利市だけの災害ではなく、警戒レベル4の避難勧告または避難指示は23市町、警戒レベル3は25市町すべてに出ました。
農業被害は約178億円
栃木県農政部の令和元年東日本台風からの復旧特集(PDF)は、台風が12日夜遅くに県へ最接近し、佐野市、栃木市、足利市など県南地域を中心に県内全25市町に大きな被害をもたらしたと記しています。農業関係の被害金額は、農作物で約41億円、家畜等で約0.2億円、パイプハウスなどの農業生産施設等で約25億円、集出荷場などの共同利用施設で約1.7億円、農地・農業用施設等で約110億円、合計で約178億円でした。
いちご、トマト、水稲などの農作物が浸水し、農業用ハウスや農業用機械も損壊しました。芳賀町を除く24市町で農地・農業水利施設等に被害が出ています。県内の製造業も農業も観光業も、それぞれの場所で「次に同じ規模の台風が来たら自社はどうなるか」を数字で考える材料が、この2つの資料にそろっています。
栃木県のBCP策定支援は専門家派遣が無料
2015年の協定から続く支援プロジェクト
栃木県は、BCP(事業継続計画)策定を支援しますのページで、平成27(2015)年1月22日に東京海上日動火災保険株式会社、一般社団法人栃木県商工会議所連合会、栃木県商工会連合会、栃木県中小企業団体中央会と「栃木県BCP(事業継続計画)策定支援に関する協定」を結び、県内事業者のBCP策定支援に取り組んでいると説明しています。

この栃木県BCP策定支援プロジェクトでは、BCP策定を希望する県内の事業者に専門家を派遣し、事業の特性に応じた策定を手伝います。費用は無料で、回数の制限もありません。専門家は東京海上日動火災保険株式会社から派遣されます。対象には事業継続力強化計画も含まれるので、「本格的なBCPは難しそうだが事業継続力強化計画は作りたい」という事業者も申し込めます。申し込みは県の相談シートをメールかファックスで経営支援課 中小・小規模企業支援室に送る形です。
地区別セミナーと商工会の事業継続力強化支援計画
県は地区別BCPセミナーも開いており、令和7(2025)年度は大田原地区、足利地区、宇都宮地区で開催されました。大田原地区の回では大田原市危機管理課が地域のハザードマップを解説しています。令和8年度の予定は県のページで確認してください。
もう1つの枠組みが小規模事業者支援法に基づく「事業継続力強化支援計画」です。中小企業強靭化法が令和元(2019)年7月16日に施行され、県内の商工会または商工会議所が管轄の市町と共同で小規模事業者の事業継続力強化を支援する計画を作り、県知事の認定を受ける仕組みになりました。自社の地域の商工会・商工会議所に相談すると、この計画に沿った支援を受けられる可能性があります。
事業継続力強化計画は取り組みやすいBCP
経済産業大臣が認定する
中小企業庁の事業継続力強化計画のページによると、この制度は中小企業者等が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定するもので、中小企業のための取り組みやすいBCPと位置づけられています。栃木県のページも、本格的なBCPの策定に比べて被災時の対応や備えに特化し、取り組みやすい内容だと説明しています。

申請は単独型・連携型とも電子申請システムから行います。中小企業基盤整備機構が専門家派遣による策定支援事業を行っており、認定後は一般社団法人日本中小企業診断士協会連合会が中小企業診断士の訪問による実効性向上支援を行っています。計画は作って終わりではなく、平時からの訓練や見直しが前提の制度です。
認定で受けられる税制・融資・加点
中小企業庁の事業継続力強化計画認定制度の概要(令和8年7月17日版・PDF)によると、認定を受けた中小企業者は防災・減災設備に対する税制措置、低利融資、補助金の加点措置等を受けることができます。
- 税制措置:中小企業防災・減災投資促進税制。令和元年7月16日から令和9年3月31日までに認定を受けた事業者が、認定日から1年以内に計画に記載した対象設備を取得して事業に使った場合、特別償却16%が適用できます(中小企業庁ページ)。
- 金融支援:日本政策金融公庫の低利融資(企業活力強化資金、BCP資金)と、信用保証の別枠(概要PDF)。いずれも別途審査があります。
- 補助金の加点:新事業進出・ものづくり、事業承継・M&A、中小企業省力化投資、小規模事業者持続化などの補助金で加点措置があります(概要PDF)。
- 認定ロゴマーク:取引先や金融機関に備えを示す材料になります。
税制の適用には青色申告などの要件があり、税制措置の対象となる企業は認定を受けられる企業のすべてではないと概要PDFに注記があります。適用の可否は税理士か最寄りの経済産業局に確認してください。補助金の加点を目的にする場合の事業計画書の考え方は補助金の事業計画書を生成AIで書く5手順で扱っています。
自社のリスクを洗い出す4つの確認
計画書の様式を開く前に、次の4つを自社の現場で確かめます。ここで出てくる事実が、計画の中身になります。
場所|市町のハザードマップで自社の立地を見る
事業所の住所を市町のハザードマップに当てて、想定される浸水の深さ、土砂災害の警戒区域、指定避難所までの道を確認します。令和元年東日本台風で被害の大きかった県南だけでなく、避難勧告は23市町に出ました。自社が河川の近くでなくても、通勤路や仕入先が浸かれば操業は止まります。
人|安否確認と出社できない日の役割
社員の連絡先と安否確認の手段、責任者が連絡を取れないときに誰が判断するかを決めます。県内の製造業では夜間や休日の当直が少ない工場も多く、栃木の自動車部品製造×生成AIで扱ったような交代制の現場では、出社できる人だけで初動を回す前提が必要です。
物と金|止まる設備と当面の資金
水に浸かると止まる設備、電源、通信、原材料の置き場を一覧にします。中小企業庁のページでは、関東経済産業局が災害発生時に必要な資金を簡易的に算定できる「リスクファイナンス判断シート」を提供していると案内しています。算定される値は参考値ですが、当面の資金をいくら手元に置くかを考える材料になります。いちご農家であれば、令和元年の農業被害で農業生産施設等が約25億円だったことから、ハウスと機械が同時に損なわれる前提で考えます。いちご農家の生成AI活用6場面で整理した書類の一覧が、そのまま資産の一覧に使えます。
取引先|受注と納品が止まったときの連絡先
主要な取引先と仕入先の連絡先、納期の猶予をどこまで頼めるか、代替の仕入先があるかを整理します。日光や那須の宿泊施設であれば、交通の遮断で到着できない宿泊客への連絡手段も含みます。観光業の文書づくりは栃木の観光業向け生成AI多言語対応4手順で扱っています。
生成AIに任せる下書きと、任せない判断
任せる|弱点リスト・役割分担表・連絡文・訓練台本
4つの確認で集めた事実を文書に整える作業は、生成AIに任せて時間を減らせます。

- 弱点リストの整理:現場で確認したメモを「場所・人・物と金・取引先」の4区分に並べ直し、対策の有無を付けた一覧にする下書き。
- 初動対応の役割分担表:責任者が不在のときの代行順、安否確認の担当、取引先連絡の担当を表にする下書き。
- 安否確認の連絡文:社員向けの安否確認メッセージと、返信の型を決めた文面。
- 訓練の進行台本:中小企業庁のページで案内されている北海道経済産業局の「BCP訓練企画シート」は、安否確認・初動対応・事業継続の3種類の机上訓練を企画できる様式です。この3種類に沿った進行台本と、参加者に配る状況付与の文面を下書きさせます。
安全衛生の教材づくりで扱った手順と同じく、生成AIが出した文章に社名や実在の取引先名を入れるのは人の作業にします。教材の作り方は安全衛生教育の資料づくりに生成AIを使うを参照してください。
任せない|ハザード情報の判定・被害想定・資金と保険
次の3つは人が行う判断です。生成AIは自社の住所がどの浸水想定区域に入るかを知りません。ハザードマップの読み取りは市町の公式資料で人が行い、生成AIには結果だけを渡します。被害想定の金額や復旧日数も、生成AIに「それらしい数字」を作らせないでください。資金と保険の判断は、リスクファイナンス判断シートの参考値と保険会社・金融機関の説明で決めます。
計画に書く内容を最終的に決めるのは経営者です。県のBCP策定支援プロジェクトの専門家派遣は無料なので、生成AIで整えた下書きを持ち込んで、専門家に穴を指摘してもらう使い方が現実的です。
訓練と見直しを回して計画を生かす
中小企業庁のページは、計画は策定と認定だけでなく、平時からその計画に基づいた訓練や見直しを通じて実効性を高めることが不可欠だとしています。認定期間中は計画の内容を変更申請でき、認定期間が終わったあとも続けるには2回目の申請が必要で、直近の計画に関する実施状況報告を添えます(概要PDF)。

机上訓練を年に1回行い、不足点を弱点リストに戻す、計画を直す、必要なら変更申請する。この一巡を回すたびに、生成AIに渡す材料が増え、下書きの精度が上がります。訓練の進行台本を生成AIに作らせるのはこの循環の入口です。
県内の事業者が10月までに進める順番
- 1. 被害記録を読む:県防災サイトの被害の概要と農政部の復旧特集を読み、自社の地域の数字を確かめます。
- 2. 4つの確認を現場で行う:場所・人・物と金・取引先を、ハザードマップと社内の名簿と設備台帳で確認します。
- 3. 生成AIで下書きにする:弱点リスト、役割分担表、安否確認の連絡文、訓練台本を下書きにします。
- 4. 県の専門家派遣を申し込む:相談シートを送り、下書きを持ち込んで指摘を受けます。
- 5. 事業継続力強化計画を申請する:電子申請システムから申請し、認定後は税制や融資の要件を税理士と金融機関に確認します。
県内の相談先
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 栃木県 経営支援課 中小・小規模企業支援室(028-623-3173) | BCP策定支援プロジェクトの専門家派遣、相談シートの提出先 |
| 地元の商工会・商工会議所 | 事業継続力強化支援計画に基づく支援、地区別BCPセミナー |
| 中小企業基盤整備機構 | 事業継続力強化計画の策定支援(専門家派遣) |
| 関東経済産業局 | 認定制度と税制措置に関する問い合わせ、リスクファイナンス判断シート |
| とちぎビジネスAIセンター | 生成AIの使い方の相談(使い方はこちらの記事で解説) |
経営支援課の電話番号はBCP策定企業の事例紹介のページに掲載されています。
まとめ
令和元年東日本台風は栃木県内全25市町に被害を出し、住家の半壊は5,233棟、農業被害は約178億円でした。栃木県は2015年の協定以来、専門家派遣が無料のBCP策定支援を続けており、事業継続力強化計画は経済産業大臣の認定で税制措置、低利融資、補助金の加点が受けられます。
計画書の様式を開く前に、場所・人・物と金・取引先の4つで自社のリスクを現場で洗い出してください。生成AIに任せるのは、その結果を弱点リスト、役割分担表、安否確認の連絡文、訓練の進行台本に整える下書きです。ハザード情報の判定、被害想定の数字、資金と保険の判断は人が行い、県の専門家派遣で穴を指摘してもらってから申請に進みます。
よくある質問
Q. BCPと事業継続力強化計画は何が違いますか。
A. 栃木県のページによると、事業継続力強化計画は本格的なBCPの策定に比べて被災時の対応や備えに特化し、取り組みやすい内容になっています。中小企業庁は「中小企業のための取り組みやすいBCP」と位置づけ、経済産業大臣が認定します。
Q. 県の専門家派遣は本当に無料ですか。
A. 栃木県のBCP策定支援のページに「費用無料・回数制限なし」と明記されています。専門家は東京海上日動火災保険株式会社から派遣され、相談シートをメールかファックスで経営支援課に送って申し込みます。
Q. 認定を受ければ必ず特別償却16%が使えますか。
A. いいえ。中小企業庁の概要PDFには、税制措置の対象となる企業は認定を受けられる対象企業のすべてではないと注記があります。令和9年3月31日までの認定、認定日から1年以内の設備取得、青色申告などの要件を税理士か経済産業局に確認してください。
Q. 生成AIにハザードマップを読ませてもよいですか。
A. 避けてください。自社の住所がどの想定区域に入るかは市町の公式資料で人が確認し、生成AIにはその結果だけを渡します。被害想定の金額や復旧日数を生成AIに作らせることもしません。
Q. 計画は一度作れば終わりですか。
A. 中小企業庁は平時からの訓練や見直しを通じた実効性の向上が不可欠だとしています。認定期間中は変更申請ができ、認定期間の終了後に続けるには実施状況報告を添えて2回目の申請を行います。
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参考・出典
- 栃木県防災サイト「令和元年東日本台風による被害等の概要(PDF)」(令和2年3月26日現在の人的被害・住家被害・避難情報、市町別の被害状況一覧)
- 栃木県農政部「令和元年東日本台風(台風第19号)からの復旧特集(PDF)」(県内全25市町の被害、農業関係の被害金額合計約178億円)
- 栃木県 経営支援課「BCP(事業継続計画)策定を支援します」(2015年1月22日の協定、専門家派遣は費用無料・回数制限なし)
- 栃木県 経営支援課「地区別BCPセミナーの開催について」(令和7年度は大田原・足利・宇都宮の3地区で開催)
- 栃木県 経営支援課「小規模事業者支援法に基づく「事業継続力強化支援計画」について」(中小企業強靭化法の施行日、商工会・商工会議所と市町の共同計画を県知事が認定)
- 栃木県 経営支援課「BCP策定企業の事例紹介」(県内3社の事例、経営支援課の連絡先)
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」(認定制度の概要、中小企業防災・減災投資促進税制、策定支援と実効性向上支援、BCP訓練企画シート、リスクファイナンス判断シート)
- 中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要(令和8年7月17日版・PDF)」(税制措置・金融支援・補助金の加点、変更申請と2回目の申請)