この記事の要点
10月支給の給与から社会保険料の控除額が変わる会社があります。変わったのは保険料率ではありません。変わったのは標準報酬月額のほうです。健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額は、4月・5月・6月に支払った報酬をもとに年1回決め直され、新しい額は9月分から翌年8月分までの各月に適用されます(日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」)。保険料を翌月控除にしている会社では、9月分の保険料を10月支給の給与から差し引くため、10月の手取りが動きます。一方、栃木県の健康保険料率9.82%が適用されたのは令和8年3月分(4月納付分)からで、10月ではありません(全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」)。この記事では、10月に何が変わって何が変わらないのかを分け、栃木県の保険料額表の数字で控除額を確かめる手順と、県内の事業所で起きやすいつまずき、生成AIに任せてよい範囲を整理します。
10月に変わるのは料率ではなく標準報酬月額
定時決定は4月・5月・6月の報酬で決まる
事業主は、7月1日時点で使用している全被保険者と70歳以上被用者について、その年の4月・5月・6月に支払った報酬を算定基礎届で届け出ます。厚生労働大臣はこの届出にもとづいて年1回、標準報酬月額を決め直します。これが定時決定です。令和8年度の算定基礎届の提出期限は7月10日でした(日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」)。

ここで大事なのは、算定基礎届の対象が「計算月」ではなく「実際に支払った月」だという点です。月末締め翌月25日払いの会社なら、3月分から5月分の給与が4月・5月・6月の支払いにあたります。自社の締め日と支払日を確認しないまま、4月から6月の勤務分で計算すると、届出そのものがずれます。
新しい標準報酬月額は9月分から翌年8月分まで
決め直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。つまり、2026年9月分から2027年8月分までが今回の定時決定でそろえた額です。年の途中で保険料が変わる理由のうち、最も件数が多いのがこの定時決定です。
控除のタイミングで9月給与か10月給与かが分かれる
9月分の保険料をいつの給与から差し引くかは、会社の控除のしかたで変わります。翌月控除なら10月支給の給与から、当月控除なら9月支給の給与からです。中小企業では翌月控除が多く、その場合は10月の給与明細から新しい額になります。従業員から「今月だけ手取りが減った」と聞かれたときは、まず自社がどちらの控除方式かを答えられるようにしておくと説明が早く終わります。
なお、標準報酬月額と控除額の関係は年末調整の社会保険料控除の欄にもそのまま出てきます。秋のうちに手順を固めておく話は年末調整の準備は秋のうちに|令和8年分の進め方と生成AIの使いどころで扱っています。
栃木県の保険料率|令和8年度に適用されている4つの率
給与から差し引く社会保険料は、栃木県で働く協会けんぽの一般の被保険者の場合、次の4つの率の組み合わせで決まります。数字はいずれも協会けんぽ栃木支部の令和8年度保険料額表の記載です(全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」)。

| 率の名前 | 令和8年度の値 | 適用開始 | 負担 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料率(栃木支部) | 9.82% | 令和7年3月分から適用 | 全額の折半額を本人が負担 |
| 介護保険料率 | 1.62% | 令和8年3月分から適用 | 40歳から64歳の人に加算 |
| 子ども・子育て支援金率 | 0.23% | 令和8年4月分(5月納付分)から | 全額の折半額を本人が負担 |
| 厚生年金保険料率(一般) | 18.300% | 平成29年9月分から適用 | 全額の折半額を本人が負担 |
健康保険料率9.82%は都道府県ごとに違う
協会けんぽの健康保険料率は都道府県支部ごとに決まります。栃木支部の令和8年度は9.82%で、令和7年度から据え置きです。厚生年金保険のように全国一律ではないため、他県の資料やウェブの早見表をそのまま使うと合いません。
介護保険料率1.62%は40歳から64歳の人だけ
介護保険第2号被保険者は40歳から64歳までの人で、この区分に当たる人だけ健康保険料率9.82%に介護保険料率1.62%が加わり、合計11.44%で計算します。誕生日の扱いは実務で間違えやすい箇所です。40歳になる月と65歳になる月で加算の開始と終了が動くため、毎月の給与計算の前に該当者の一覧を更新しておきます。
令和8年4月分から子ども・子育て支援金率0.23%が加わった
令和8年4月分(5月納付分)から、子ども・子育て支援金率0.23%の徴収が始まりました(全国健康保険協会「協会けんぽの子ども・子育て支援金率について」)。保険料額表では健康保険料や厚生年金保険料と同じように全額と折半額が並んでおり、標準報酬月額300,000円なら全額690.0円・折半額345.0円です。
これとは別に、事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金があります。拠出金率は0.36%で、被保険者の負担はありません。給与から差し引く額と、会社が納める額を分けて説明できるようにしておきます。
厚生年金保険料率18.300%は全国一律
厚生年金保険料率は平成29年9月を最後に引き上げが終わり、18.3%で固定されています。事業主と被保険者が半分ずつ負担します。標準報酬月額は第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)までの32等級です(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。健康保険の等級(第1等級58,000円から第50等級1,390,000円まで)とは範囲が違うので、上限付近と下限付近の従業員がいる場合は表の読み違いに注意します。
栃木県の計算表|標準報酬月額ごとの本人負担の目安
次の表は、協会けんぽ栃木支部の令和8年度保険料額表から折半額(本人が負担する額)を抜き出したものです。単位は円です。

| 標準報酬月額 | 健康保険(介護なし) | 健康保険+介護 | 子ども・子育て支援金 | 厚生年金 |
|---|---|---|---|---|
| 110,000 | 5,401.0 | 6,292.0 | 126.5 | 10,065.00 |
| 150,000 | 7,365.0 | 8,580.0 | 172.5 | 13,725.00 |
| 200,000 | 9,820.0 | 11,440.0 | 230.0 | 18,300.00 |
| 240,000 | 11,784.0 | 13,728.0 | 276.0 | 21,960.00 |
| 280,000 | 13,748.0 | 16,016.0 | 322.0 | 25,620.00 |
| 300,000 | 14,730.0 | 17,160.0 | 345.0 | 27,450.00 |
| 360,000 | 17,676.0 | 20,592.0 | 414.0 | 32,940.00 |
| 410,000 | 20,131.0 | 23,452.0 | 471.5 | 37,515.00 |
数値は全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」の栃木支部の表から転記しました。
3ステップで控除額を出す
まず、定時決定で決まった標準報酬月額を確認します。次に、その人が40歳から64歳かどうかで「健康保険(介護なし)」か「健康保険+介護」のどちらの列を見るかを決めます。最後に、選んだ列の額と子ども・子育て支援金、厚生年金の額を足します。標準報酬月額300,000円で介護保険第2号被保険者に該当しない人なら、14,730円と345円と27,450円を足して42,525円です。
端数は50銭で切り分ける
表に銭単位の端数が残っている点には理由があります。事業主が給与から被保険者負担分を控除する場合、端数が50銭以下なら切り捨て、50銭を超えるなら切り上げて1円とする、と保険料額表に定められています。事業主と被保険者の間に特約がある場合は、その特約に従って端数を処理することもできます。給与ソフトの端数設定が自社の運用と合っているか、この機会に見ておくとよい箇所です。
賞与は標準賞与額で計算する
賞与の扱いも別ルールです。賞与にかかる保険料は、賞与額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に料率を掛けて計算します。標準賞与額の上限は、健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金が年間573万円(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計)、厚生年金保険と子ども・子育て拠出金が月間150万円です。
近県と比べて何が違うか|群馬・茨城・埼玉との料率差
令和8年度の北関東周辺の料率
協会けんぽの健康保険料率は支部ごとに決まるため、県境をまたいで働く人や、他県に事業所を持つ会社では差が出ます。令和8年度の北関東周辺の率は次のとおりです。

| 支部 | 令和7年度 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 栃木 | 9.82% | 9.82% |
| 群馬 | 9.77% | 9.68% |
| 茨城 | 9.67% | 9.52% |
| 埼玉 | 9.76% | 9.67% |
数値は全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」の一覧によります。近隣3県が引き下げになったのに対し、栃木支部は据え置きです。
標準報酬月額300,000円での差を試算する
差がどれくらいかを試算します。標準報酬月額300,000円で介護保険第2号被保険者に該当しない人の本人負担は、栃木が14,730円です(保険料額表の値)。同じ標準報酬月額に茨城の9.52%を当てはめると14,280円で、差は月450円という試算になります。1人あたりの差は小さく見えますが、事業所を分けている会社では、適用される支部がどこかで年間の人件費の見え方が変わります。この試算は率から計算したもので、実際の控除額は各支部の保険料額表で確認してください。
なお、保険料率の話と最低賃金の話は別の制度です。求人票の時給や賃上げの原資を考えるときは、県が毎月出している賃金統計とあわせて見ると判断しやすくなります。県内の賃金水準の読み方は栃木の賃金・労働時間データの読み方|毎月勤労統計の3つの数字で整理しています。
県内の事業所で起きやすい3つのつまずき
パート・アルバイトの比率が高い事業所
栃木県の毎月勤労統計調査地方調査結果では、令和8(2026)年6月分のパートタイム労働者割合は26.4%です(栃木県「栃木県の賃金、労働時間及び雇用の動き(令和8(2026)年6月分)」)。小売や宿泊、食品製造のように短時間労働者が多い事業所では、定時決定の対象者が多く、しかも月ごとの支払額のばらつきが大きくなります。4月から6月にシフトが増えた人は、その後シフトが戻っても9月分から高い標準報酬月額が1年間続きます。

対策は、算定基礎届を出した7月の時点で「今回上がった人・下がった人」の一覧を作り、9月になってから本人に説明できる状態にしておくことです。10月の給与明細が出てから調べ始めると、繁忙期と重なります。
4月から6月に残業が偏る製造業・建設業
自動車部品や医療機器の製造、建設のように、期初に残業が集中する業種では、4月から6月の報酬が年間の平均より高く出やすくなります。超過労働給与も報酬に含まれるため、その3か月の残業がそのまま1年分の標準報酬月額に反映されます。
年間の報酬の平均と、4月から6月の平均が著しくかけ離れる場合には、年間平均での算定という取り扱いがあります。該当しそうな人がいる事業所は、次回の算定基礎届の前に年金事務所へ相談しておくと、毎年の議論が減ります。
9月以降に昇給や手当変更がある場合の随時改定
定時決定のあとに固定的賃金が変わり、変動後の3か月の平均報酬月額が従前の標準報酬月額と2等級以上離れたときは、随時改定(月額変更届)の対象になります(日本年金機構「随時改定(月額変更届)」)。秋に昇給や手当の新設を予定している会社は、定時決定と随時改定のどちらで動くのかを分けて管理します。賃上げの原資を助成金で確保する場合の整理は栃木の賃上げ支援金とキャリアアップ助成金の早見表にまとめています。
相談先と届出の窓口|県内5つの年金事務所
届出は年金事務所、保険料額表は協会けんぽ
栃木県内には、宇都宮東・宇都宮西・大田原・栃木・今市の5つの年金事務所があります(日本年金機構「栃木県内の年金事務所管轄区域」)。管轄は事業所の所在地で決まるため、支店や工場が複数ある場合は事業所ごとに窓口が違うことがあります。
算定基礎届や月額変更届の手続き、年間平均での算定の相談は年金事務所です。保険料額表や健康保険の給付、任意継続の相談は協会けんぽ栃木支部です。窓口が分かれているので、電話をかける前にどちらの話かを整理しておくと一度で済みます。
体制づくりとAI活用の相談先
給与計算の体制そのものを見直したい場合は、総務・経理の生成AI活用7場面|栃木の中小企業で間接部門の分担を整理しています。経営全般の無料相談は栃木県よろず支援拠点、AI活用の相談は栃木県産業振興センターが運営するとちぎビジネスAIセンターがあります。
生成AIに何をさせて、何を人がやるか
下書きに使える場面
社内向けの説明文は生成AIの下書きが使えます。「10月支給の給与から社会保険料の控除額が変わります。理由は、4月から6月の報酬をもとに標準報酬月額が決め直され、9月分から新しい額が適用されるためです」という骨子を渡して、朝礼用の3分の説明原稿と、掲示用の短い案内文の2種類を出させる、という使い方です。

想定問答の洗い出しにも向いています。「手取りが減った理由は」「来年も同じ時期に変わるのか」「残業を減らせば戻るのか」といった質問を先に列挙させ、回答は社内で確定させます。
入力しないもの
個人名、マイナンバー、個人別の標準報酬月額、口座情報、評価情報は入力しません。説明文を作るときは、標準報酬月額300,000円のような一般的な数値例に置き換えます。自社の実数を使う必要がある場合でも、人数や平均値のような集計値に丸めてから渡します。生成AIの利用ルールを社内で決める手順は栃木の中小企業のための生成AI利用ガイドライン作成手順にあります。
数字は人が入れて検算する
料率と保険料額は、生成AIに出させないでください。協会けんぽの保険料額表から人が転記し、掛け算と割り算は表計算ソフトで検算します。生成AIは年度をまたいだ料率を混ぜることがあり、「令和8年度」と書いてあるのに前年度の値が入っていても文章としては自然に読めてしまいます。都道府県ごとに率が違う項目なので、他県の値が紛れ込んでいないかも目で確かめます。
よくある質問
Q. 10月に保険料率が上がったのですか。
いいえ。栃木支部の健康保険料率9.82%は令和7年3月分から適用されていて、令和8年度も据え置きです。10月の給与で控除額が変わるのは、9月分から新しい標準報酬月額が適用されるためです。
Q. なぜ9月分なのに10月の給与で変わるのですか。
保険料を翌月控除にしている会社では、9月分の保険料を10月支給の給与から差し引くためです。当月控除の会社では9月支給の給与から変わります。
Q. 標準報酬月額はいつの報酬で決まりますか。
その年の4月・5月・6月に支払った報酬です。勤務した月ではなく、実際に支払いを行った月で数えます。
Q. 40歳になった人の介護保険料はいつから差し引きますか。
介護保険第2号被保険者は40歳から64歳までの人です。該当する人は健康保険料率9.82%に介護保険料率1.62%が加わり、合計11.44%で計算します。開始と終了の月の扱いは、協会けんぽの案内で自社の該当者ごとに確認してください。
Q. 子ども・子育て支援金はいつから始まりましたか。
一般の被保険者は令和8年4月分(5月納付分)からです。令和8年度の率は0.23%で、保険料額表には全額と折半額が載っています。
Q. 昇給したら次の10月まで保険料は変わりませんか。
固定的賃金が変わり、変動後3か月の平均報酬月額が従前の標準報酬月額と2等級以上離れた場合は、随時改定の対象になります。その場合は10月を待たずに変わります。
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