TOCHIGI AI JOURNAL

記事を読む 栃木のAI活用・補助金・研修設計を実務で使う
業務改善

栃木の農業産出額の読み方|品目別ベスト10で何が変わるか

⏱ 約10分で読めます
栃木の農業産出額の読み方|品目別ベスト10で何が変わるか

この記事の要点

栃木県の農業産出額は、県がまとめた冊子と、国(農林水産省)の統計の2か所で確認できます。栃木県農政部「栃木県の農業・農村の概要 2025年度版」によると、栃木県の令和5年の農業産出額は2,959億円で、全国順位は10位です。

この数字を業務で使うときに引っかかる点は3つあります。1つ目は、「農業産出額」と「生産農業所得」はまったく別の数字だということ。2つ目は、県の冊子と国の最新統計では対象年次がずれていて、同じ品目でも金額が違って見えること。3つ目は、県全体の合計より、品目別ベスト10と部門構成のほうが自社の判断材料になることです。

食品製造、卸売、資材、運送、金融、それに農業法人自身と、栃木県内で農業に接している会社はどこも「県の農業がどこに寄っているか」を前提に商売をしています。以下では、県と国が出している一次情報だけを使って、どの資料に何が載っていて、どこを読めば自社の話になるのかを整理します。

農業産出額はどこで公表されているか

国の「生産農業所得統計」が大もと

都道府県別の農業産出額の大もとは、農林水産省の生産農業所得統計です。農林水産省「生産農業所得統計」では、令和6年の農業総産出額及び生産農業所得が令和7年12月23日に公表され、その後、令和8年3月25日に確報が掲載されています。

生産農業所得統計が速報と確報の2段階で公表される流れと、県の冊子の年次を並べた図
国の生産農業所得統計は速報と確報の2段階で出て、県の冊子は発行時点の年次で止まる

つまり同じ「令和6年」の数字でも、最初に出る値と、あとから確定する値の2段階があります。会議資料や企画書に貼るときは、速報と確報のどちらを引いたのかを1行残しておくと、あとで数字が動いたときに説明がつきます。数表そのものは政府統計の総合窓口(e-Stat)「生産農業所得統計」からダウンロードできます。

県の冊子は「読み物」として先に開く

県側の入り口は栃木県農政部「栃木県の農業・農村の概要 2025年度版」です。この冊子は令和7(2025)年12月発行で、「本書のデータは令和7(2025)年11月時点のものです」と明記されています。県内の品目、担い手、農地の数字が10ページほどにまとまっているので、最初に全体像をつかむにはこちらが速いです。

ただし、発行時点で入手できた統計を載せているため、収録されている農業産出額は令和5年の数字です。国の生産農業所得統計のほうが先に進んでいる、という関係になります。県の冊子を「地図」、国の統計を「最新の実測値」として使い分けるのが実務的です。

品目別ベスト10の読み方|栃木の上位10品目

上位10品目と全国順位

同じ冊子に載っている「とちぎの農産物産出額ベスト10」(令和5年)は次のとおりです。産出額と構成比、そして全国順位が並んでいるところがこの表の要点です。

順位 農産物 産出額 構成比 全国順位
1 米 586億円 19.8% 8位
2 生乳 435億円 14.7% 2位
3 鶏卵 348億円 11.8% 7位
4 豚 279億円 9.4% 10位
5 いちご 277億円 9.4% 1位
6 肉用牛 251億円 8.5% 6位
7 もやし 106億円 3.6% 1位
8 トマト 78億円 2.6% 8位
9 なし 53億円 1.8% 4位
10 にら 49億円 1.7% 2位

「県内で大きい」と「全国で強い」は別

この表は、2つの違う質問に同時に答えています。「県内の金額として大きいのはどれか」は産出額と構成比の列、「全国のなかで栃木が強いのはどれか」は全国順位の列です。

米は県内1位(586億円・19.8%)ですが、全国では8位です。いちごは県内5位(277億円・9.4%)ですが全国1位、もやしは県内7位(106億円・3.6%)で全国1位です。金額の大きさだけを見ると米と畜産の話になり、「栃木らしさ」を探すと、いちご・もやし・にら・なしが浮かび上がります。

自社が広報やブランドの文脈で栃木を語るなら全国順位の列、仕入れや物流の量を見積もるなら産出額の列、というように、開く列を最初に決めてから表を見ると迷いません。

畜産が約4割という構成

冊子には「畜産物の産出額は増加傾向であり、本県の農業産出額の約4割を占めています」と書かれています。実際、ベスト10のうち生乳・鶏卵・豚・肉用牛の4つが畜産です。

栃木というと、いちご王国のイメージが先に来ますが、金額の重心は畜産にあります。飼料、畜舎設備、衛生資材、と畜・食肉加工、輸送冷蔵といった周辺産業の県内需要は、この構成比から当たりを付けられます。逆に、いちごの話だけで県内農業の全体像を語ると、4割を落とすことになります。

「産出額」と「生産農業所得」は違う

定義の違いを1行で押さえる

統計の名前は「生産農業所得統計」ですが、よく引用されるのは「農業産出額」のほうです。産出額は農業生産活動によって生み出された生産物の価額、生産農業所得はそこから経営に要した費用などを差し引いたあとに残る所得で、性質が違います。詳しい定義と作成方法は農林水産省「生産農業所得統計」の統計の概要に置かれています。

農業産出額から経営に要した費用を差し引いて生産農業所得が残る関門の図
産出額から経営に要した費用を差し引いた残りが生産農業所得にあたる

実務で効くのは、「産出額が増えた=農家が儲かった」とは限らない、という一点です。資材費や飼料費が上がれば、産出額が伸びても所得は伸びません。取引先の農業法人や産地の体力を見たいときは、産出額だけで話を終わらせないようにします。

社内資料での言い換え

社内で共有するときは、産出額を「県内の農産物の売上規模」、生産農業所得を「そこから費用を引いた手残り」と言い換えると誤解が減ります。ただし言い換えたことは注記に残します。統計用語をそのまま使うのが原則で、平易な言い換えはあくまで補助です。

年次のずれで数字が変わる|いちごの277億円と303億円

同じ品目で2つの金額が出てくる理由

県の冊子では、いちごの産出額は277億円(令和5年)です。一方、栃木県「全国のいちご生産割合から見た栃木県の状況」では、栃木県のいちごの産出額は303億円、全国は2,144億円と記載されています。こちらの出典は「農林統計生産農業所得統計確報」で、令和8年3月25日公表、対象は令和6年産です。

令和5年の277億円と令和6年産の303億円を左右に並べて比べた図
同じいちごの産出額でも、対象年次が違えば金額が変わる

277億円と303億円は、どちらかが間違っているのではなく、対象年次が違うだけです。資料を並べて引用するときに年次を落とすと、社内で「数字が合わない」と止まります。金額を書き写すときは、必ず「令和◯年」を一緒に書き写します。

連続日本一の年数も出典が分かれる

同じページには、いちごの産出額が平成7(1995)年から令和6(2024)年産まで30年連続日本一と書かれています。一方、栃木県「全国のいちご生産推移から見た栃木県の状況」では、収穫量が昭和43(1968)年産以降57年連続全国1位、作付面積が平成13(2001)年産以降24年連続全国1位、単収が平成3(1991)年産以降34年連続全国1位と、3つの別々の連続記録が並びます。

出典も分かれていて、産出額は生産農業所得統計、収穫量・作付面積・単収は農林水産省作況調査です。「日本一」と書くときに何の日本一なのかを書き分けないと、広告表示としても危うくなります。栃木県内で販促物を作る場合は、この書き分けをそのまま踏襲するのが安全です。

収穫量と作付面積の実数

同じページによると、令和6(2024)年産の全国のいちごの収穫量は156,600t、作付面積は4,700haです。栃木県については、令和6年産で単収が5t/10aを上回ったと記載されています。県の冊子側では、いちごの収穫量は25,700トン(R6)と載っています。

このように、同じ「いちご」でも、産出額・収穫量・作付面積・単収の4つは別の統計欄です。どれを使うかで結論が変わるので、資料の1枚目に「この資料で使う数字は◯◯です」と書いておくと、あとの議論が早くなります。

市町ごとの数字を見るには|市町村別農業産出額(推計)

推計値であることを前提に使う

県全体では大きすぎる、という場合は、農林水産省の市町村別農業産出額(推計)を使います。農林水産省「市町村別農業産出額(推計)」によると、令和6年の市町村別農業産出額(推計)は令和8年7月24日に公表されており、農林業センサス結果等を活用した推計結果として、部門別・詳細品目別のデータと全国・都道府県内順位一覧が提供されています。

生産農業所得統計と市町村別農業産出額の推計が1つの判断に集まるハブ図
県全体の統計と市町村別の推計を重ねると、訪問の優先順位まで降ろせる

名前のとおり推計値です。市町ごとの実測調査ではないので、上位・下位の顔ぶれや大まかな規模感を掴む用途に向きます。1位と2位の差が小さいときに順位だけで結論を出すのは避けます。

営業エリアの優先順位づけに使う

たとえば飼料や農業資材を扱う会社であれば、県内順位一覧から自社の取扱品目が強い市町を拾い、訪問の優先順位を組み替えられます。食品製造なら、原料調達先の候補を市町単位で絞り込めます。県全体の2,959億円という数字は営業計画には粗すぎますが、市町別まで降ろすと担当者の行動に落ちます。

担い手と農地の数字を重ねる

経営体と従事者の年齢

産出額だけを見ていると、「県内農業は2,959億円の市場」で話が止まります。同じ冊子には、担い手側の数字も載っています。農業経営体数は年々減少して30年前の約4割、基幹的農業従事者のうち約7割を65歳以上が占めています。一方で、経営面積5ha以上の経営体は30年前の約2倍で、経営の大規模化が進んでいます。

農業経営体数、基幹的農業従事者、経営面積、耕地面積を縦に積んだ層構造の図
担い手・経営規模・農地の3層を重ねると、訪問先の数と1件あたりの規模の向きが見える

売り手として見ると、訪問先の数は減り、1件あたりの規模は大きくなっている、ということです。人数ベースの営業計画は合わなくなります。また、令和6年度は363名の新規就農者を確保し、平成27年度から10年連続で300名を超えたとも記載されています。減り続ける母数のなかで、毎年300名規模の入れ替わりがある点は、研修サービスや初期導入の提案では効いてきます。

農地の数字

農地側では、耕地面積約12万haのうち田の面積が約78%を占めると記載されています。水田が中心の県だという前提は、機械・資材・作業受託の需要構成をそのまま左右します。同じ「農業向け」でも、畑作中心の県と同じ商品構成では外れます。

労働力側の数字を県全体の統計と突き合わせたいときは、栃木の有効求人倍率1.09倍|統計を生成AIで読み解く手順で扱った進め方が、そのまま農業分野にも使えます。

生成AIをどこまで使うか|統計の要約と社内共有

下書きに使ってよいもの

公表済みの統計は公開情報なので、生成AIに読ませても情報漏えいの問題は起きません。実務で効くのは次の3つです。

  • ベスト10の表を貼り付けて、「県内金額で上位の品目」と「全国順位で上位の品目」を2つのリストに分けさせる
  • 産出額・収穫量・作付面積・単収の違いを、営業担当向けに3行で説明する文の下書きを作らせる
  • 市町村別の順位一覧から、自社の取扱品目が上位に入る市町だけを抜き出させる

入力してはいけない情報

一方で、取引先の農業法人の出荷量、契約単価、未公表の作付計画は入れません。公開統計と自社の非公開データを1つのプロンプトに混ぜた時点で、扱いが「公開情報の要約」ではなくなります。分析したい場合は、自社データ側を件数や金額帯に丸めてから渡します。いちご農家向けの具体的な使い分けは、いちご農家の生成AI活用6場面|栃木の販促と書類で整理しています。

人が決めること

年次のずれの扱い、推計値をどこまで信用するか、「日本一」をどう書くかの判断は人がやります。生成AIは数字の並べ替えと言い換えは得意ですが、277億円と303億円のどちらを使うべきかは、その資料の目的を知っている人にしか決められません。出典と年次を必ず本文に残す、という運用だけは人が守ります。

よくある質問

Q. 栃木県の農業産出額はいくらですか。

栃木県農政部「栃木県の農業・農村の概要 2025年度版」によると、令和5年の農業産出額は2,959億円で、全国順位は10位です。

Q. いちごの産出額が資料によって違うのはなぜですか。

対象年次が違うためです。県の冊子に載っているのは令和5年の277億円、いちごの統計ページに載っているのは令和6年産の303億円(生産農業所得統計確報・令和8年3月25日公表)です。

Q. 「農業産出額」と「生産農業所得」はどう違いますか。

産出額は農業生産活動によって生み出された生産物の価額、生産農業所得はそこから経営に要した費用などを差し引いたあとに残る所得です。産出額が増えても所得が増えるとは限りません。

Q. 市町村ごとの農業産出額は見られますか。

農林水産省「市町村別農業産出額(推計)」で公表されています。令和6年分は令和8年7月24日公表で、部門別・詳細品目別のデータと全国・都道府県内順位一覧が提供されています。推計値である点に注意してください。

Q. 栃木の畜産はどのくらいの比重ですか。

栃木県農政部の冊子には、畜産物の産出額が本県の農業産出額の約4割を占めると記載されています。ベスト10のうち生乳・鶏卵・豚・肉用牛の4品目が畜産です。

Q. 最新の数字はどこで確認すればよいですか。

都道府県別の最新値は農林水産省「生産農業所得統計」と、e-Statに掲載されている統計表で確認します。県の冊子は発行時点の数字なので、年次を必ず確認してください。

運営元 Uravation より自社に近い業務から着手先を選ぶ材料として、業務別の生成AI活用事例50例を無料で公開しています。 生成AI活用事例 業務別50選を受け取る(無料)

参考・出典